小川未明の作品は数えきれないほどたくさんあります。その中でこの『どこかに生きながら』は、めだたない地味な作品の一つです。しかしながら、ノンフィクションめいた感じの中に忘れられない尾をひくものをもっています。
作者の、物言えぬ小動物へのおもいやり、祈りが伝わってきます。きっと、作者は万物におしみなく愛をそそいだ人だったのでしょう。ねこといぬは、人間を頼りに生きている動物です。それゆえに野生で生きていくことのむずかしさを未明は思わずにはいられなかったのでしょう。
現代、ますます、のらいぬ、のらねこで生きていくのは、むずかしい世の中になってきています。ひと昔まえは、あみの上で魚を焼き、のなねこのねらうチャンスはあったのです。そして魚を盗まれても「やられた!」「やってやった!」という、ねこと人間のあそびめいたやりとりがあったのです。そして、なによりも、いいともだちであったのです。
今や、ねこはペットになるか、うえじにかのいずれかをえらばねばならぬ時代になってきました。ねこと人間はともだちであった方が楽しいじゃありませんか?
“みなさん!魚はやっぱりあみの上で焼こうではありませんか!”

どこかに生きながら
出版社:
白泉社
著者:
小川未明/作
いもとようこ/絵
初版年月日:
1982年7月
サイズ:
31p 31cm
価格:
1365円(税込)